<Stained Glass>
1月5日の朝、リヨンから出発したバスは約370キロの距離を走った5時間後、ブールジュに到着した。ここにはサンテテイエンヌ大聖堂という美しい教会がある。
帰国後、旅で撮った数々の写真を眺めて最近思うのは、忙しい旅のスケジュールの中にあって時々訪れる機会に恵まれる教会という場所に私は随分と安らぎと安心を
与えてもらっているということである。観光地の階段や道路を時間に追われながら早足で、時には走りながらゆきすぎる瞬間、急ぎすぎている自分を感じていても、
時間の流れを止めることは出来ないし、ましてや、変えることなどなお出来ない。そんな中にあって教会訪問というのは限りある時間の中で唯一落ち着いた時間を
約束されている場所のように思える。ここでしっかり呼吸を整えて気持ちを落ち着ける。教会の中にはゆったりと静かな時間が流れている。私はその空気の流れが
とても好きだ。自分とそして神と向き合う孤独の時間。短い一瞬ではあるけれど、ここまでの自分をさらけ出してみる。自分の身辺のこと、今のそしてこれからのことを
大きな力に委ねてみる。自分の中の弱さと向き合い心の中で神と会話する。気持ちがとても静かに穏やかに変わってゆく。少々興奮した気持ちを鎮め、
急ぎすぎなペースを戻し再び旅と向き合う。さぁ、ここからまた始まりだ。
高い高い窓からは美しいステンドグラス。眩しい光は教会内にいっぱいに届いて私たちの心と身体を癒してくれる。こんな素敵な時間が与えられたのなら、
また明日を楽しみに生きてゆける。
<おとぎの国>
ロワール地方。ここにはロワール川のほとりに約80から100もの古城がある、かつて100年もの間、宮廷が置かれていたフランス政治の中心地。
そのロワール地方の数ある城の中で最も有名なのがこの日の午後訪れた<シャンボール城>である。シャンボール城はヴィクトル・ユゴーに
”風に吹き上げられた女性の髪”と形容されたほどに華麗で壮大な城。フランソワ1世によって建てられたこの城は狩猟用の館であったものの、その部屋数は400にものぼった。
15世紀中ごろから16世紀にかけて建築が進んでいったこの地方の城建設にフランス革命への幕開けを思うのは私だけであろうか。
この城の特徴は2つ。2重螺旋階段と屋上テラス。この螺旋階段は人と人がすれ違うことなく昇り降りできる。テラスからはこの城の規模をある程度
掌握することができる。テラスからは広大な庭、はるか遠くを見渡すことが出来る。この<広大な><はるか>という尺度は私にとって途方もない空間。。。
住居用の館になぜこんな広大な面積が必要なのだろうか。400もの部屋数の必要性は?館内放送などなかったかもしれないはるか昔、住人?家族?たちは
どのように相手とコンタクトを取り合っていたのだろう。生活はしやすかっただろうか。部屋の空気は暖かかっただろうか。常に笑い声や話し声が響く人の気配は
感じられたのだろうか。話したいときに話したい相手はそばにいただろうか。そんな空間が莫大な財産を使って建てられたなど私には到底信じられなかった。
その場所はとても寂しく冷ややかで恐ろしい。
もし今に残るロワール川の辺に立つ建物が病院や施設だったなら、貴族の意識が少しだけ違っていたら、フランスの歴史はまた大きく変わっていたかもしれない。